作品に寄せられた言葉 <4> 

4月18日の神戸の特別上映会にご来場いただいた方から寄せていただいた言葉です。


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だんだんと巾と深みが出てきて、最後のおじいちゃんの独白では胸が熱くなりました。
もう一度観てみたくなるドキュメンタリーです。
嶋田 至 (LLCチーム経営)



おじいちゃんが、海を渡って長い年月の間に、生きることの意味を本当に簡潔に悟られていったことがよくわかりました。すばらしいドキュメンタリーだと思いました。
国がなければ人類に尽くすという、人間の使命感に到達、それを決して押し付けがましくなく、分かりやすく話す、魅力的です。国境を越え、異文化の中で苦労をし、獲得した、普遍的な言葉だと思いました。
実のある一時間ありがとうございました。
新屋 学 (神戸国際協力交流センター専務理事)



92歳にして過去ではなく未来の人生を見つめる『ブラジルから来たおじいちゃん』紺野堅一さん。苦節の移民生活だったはずなのに、苦い体験も甘いアロマにして放っておられ、背筋をすっとのばして世の中を見ておられる。あの当時、ブラジルへ、中国へ、朝鮮へと日本政府は国民を国外に移住させたが、紺野さんの『朝鮮に行かんでよかった』の一言は、わたしの胸にぐさっときました。栗原監督の前作も今回の作品も、社会から『はみ出した』人間をあつかいながら、ほんとうはその人たちのほうがより豊かな生き方をしていることに気づかせてくれる。そして見る者はいやおうなく日本や日本人を問うことになるのです。
(三木草子)



今年は移民百周年の年で、日本とブラジルの各地で記念行事が行われている。記念祭が行われるのはよい事だと思うが、その大半がお祭りムードのような気がして、これでいいのかなと思ってしまう。そんな時、今回の作品を見ることができてよかったと思っている。何がよかったかというと、それは移民の「痛み」を映しているところだ。移民と言うのはそもそも、その歴史のはじまりを考えれば、苦しみを出発点にしていた。移民は出国する以前、自分たちの生活が困難だから外国での生活に希望を見出したのだ。しかし、いざ日本を出てブラジルに到着してみれば、宣伝で聞いていた生活とは全く違って奴隷同然に酷使されたという。最初の移民の人たちはこの苦い経験を共有していると思う。作品に登場する紺野さんも苦い思いを経験しているはずだ。

作品中、紺野さんがなぜあんなにも精力的に行動を起こしているかと考えてみると、その根幹にはやはり苦しみを味わった経験があると思う。国家の移民政策に翻弄され、ブラジルで苦しい思いをしながら労働に従事し、自らの存在が不利な立場にあると考えた紺野さんは、「生きなければ」と思ったはずである。そして、この生きることは紺野さん個人の利益ではなく他者の利益へと向かっていった。

今日、日本に来ているデカセギのブラジル人も生活が安定してきているとは言われるが、やはり何かしろの困難を抱えているはずだ。そうした、生活に困難を抱えている人々のところに、経験に基づく紺野さんの声が届く。そして、私たち鑑賞者はなかなか見ることのできないこうした交流を目撃することで、移民の歴史とどのようにこれから関わっていけばいいのかという議論につながっていくのだと思う。
山本利彦(東京外国語大学大学院)



何と言ってもおじいさんがよい。栗原監督の淡々と事象をとらえていく作風がよい。とにかく、久しぶりに自然に入り込んで観られるドキュメンタリーでした。

おじいさんはまるで「東京画」(W・ヴェンダース)の笠智衆のように淡々と自分の過去を振り返り、移民当時のことから現在に至るまで、思いつくままに移動しながら語っていきます。訪ねて歩くのは、親戚ではないんだけどつきあいのある出稼ぎ日系ブラジル人の家族たち。その子弟の学校(小学校と中学校)も訪問して先生と面談、日系人への教育がいかに大事かを説明します(現実にはほとんどの子が中卒で働き始めるが、就職先がなかなかない)。子どもたちとはマッサージしあったり、写真撮ったりして楽しそう。

移民した頃は「大日本帝国臣民」として行ったのに、今では「日系人」と呼ばれていることなど、時々はさまれるチクッとくる日本政府に対する思い。
現在ブラジルの日系人は150万人いて、そのうち31万人が日本に出稼ぎに来ているそうです(5分の1やん!)。

あと、「語る記憶」つながりで最近体験したいくつかのことを思い出しました。去年の夏に泊まった沖縄の宿で聞いたおじいさん(83才)の、戦争、大阪万博、沖縄返還の時の体験。それと最近たまたま聞いた知り合いの神戸の震災体験。ニュースや歴史の教科書では決して知ることのできない事実は、そこらじゅうにあるんだなー、と実感しました。
田尻麻里子(アーティスト)


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